名古屋高等裁判所 昭和56年(ラ)48号 決定 1981年4月21日
抗告人 株式会社カクマル
右代表者代表取締役 幸田末三
右代理人弁護士 石川泰三
同 岡田暢雄
同 野村弘
同 成田康彦
相手方 美濃屋木材株式会社
右代表者代表取締役 美濃屋美義
主文
原決定を取消す。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
理由
第一 本件抗告の趣旨と理由は、別紙(一)「和議認可決定に対する即時抗告の申立書」と題する書面に記載のとおりである。
第二 当裁判所の判断
本件記録によれば、原裁判所は昭和五五年一二月四日相手方に対する和議開始決定をなし、相手方は昭和五六年二月一六日別紙(二)記載の和議条件を提供し、同年二月一七日開かれた債権者集会において和議の可決がなされ、原裁判所は同日右条件による和議を認可する旨の決定をしたこと、抗告人は本件和議事件の債権者であり、右債権者集会において和議に同意しなかったものであることが認められる。
本件和議条件では、一般の和議債権者と興国物産運送株式会社、総武通商株式会社、明和産業株式会社の三社とでは、別紙(二)記載の和議条件のとおり弁済率、和議債権に対する担保権の有無においてその条件が異なることは抗告人主張のとおりである。
ところで、和議条件は、各和議債権者について平等であることを要する(和議法四九条二項、破産法三〇四条)が、右にいう条件の平等とは、形式的に一律である必要はなく、実質的な平等をいい、従って弁済率及び担保等に差異を設けても、弁済期等との関係で実質的平等が図られておれば、右平等原則違反は生じないものと解すべきである。この点を本件和議条件に則して見るに、管財人太田耕造は、昭和五六年二月一七日付の報告書をもって、「本件和議条件では一般の債権と更生会社興国物産運送(株)外二社とについて弁済の率が相当に異るが、将来の物価の変動、配当の原資が将来の収益に依存していることの危険性並びに担保が一応付されているが、担保価値が十分でないこと等を勘案すると、債権者間の実質的な公平を害するとは言えず、あとは債権者の判断に任せて差支えないと思料した。」旨を前記債権者集会期日において陳述している。
しかしながら、右報告書は、簡略にすぎ、一般の和議債権者と興国物産運送株式会社ほか二名との弁済率の差異及び担保の有無が前記説示の実質的平等を害さないか否についての判断の資料、特に担保として提供される不動産の価値に関する資料が十分でない。また、同報告書のほかに右に関する資料が債権者集会において債権者の判断の用に供されたものとも窺えない。和議が債権者等多数の関係者の法律関係に影響を及ぼすものであり、これに賛成しない和議債権者をも拘束することに鑑みると、裁判所は、和議の認可に当たり、自ら必要な資料を収集して和議法五一条所定の事由の存否を十分検討する必要があることはいうまでもないところ、本件にあっては、前記判断資料が不十分であるのに、原審がこれを補う資料を収集した形跡がなく、この点において審理が不足するうらみなしとしない。
よって、右の点について審理を尽させるため、原決定を取消して、本件を原審に差し戻すのが相当であるので、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 瀧川叡一 裁判官 早瀬正剛 玉田勝也)
<以下省略>